スーダン人コミュニティとヌバ難民たち

「多くのスーダン人が、この国に不法入国しています」とバーミンガムに住むスーダン出身のサッシャ・ヤラ(30)は話す。彼女はスーダンの南部コルドファン地方出身で、9年前に英国に移住した。今は4人の子どもの母親だ。

彼女のようなスーダン出身者は、英国で人口第2の都市バーミンガムに住む移民の一部。100万人以上が暮らすこの都市は、カリブ海諸国、アフリカ、南アジアからの移民が多く住む多文化都市だ。2011年の国勢調査では、バーミンガムの白人英国人は53.1%と、英国平均の80.5%より遥かに低い。

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バーミンガムの街角

「私の夫も不法入国して難民庇護申請をしたのです。」ヤラは説明する。夫の難民申請が認められた後、彼女は英国に合流し、家族の暮らしが始まった。

彼女は家族で、バーミンガムで行われたスーダン難民の子ども達のためのチャリティイベントに参加していた。このイベントは、ヌバ民族を支援する団体グリーン・コルドファンが3月に開催した。ヌバ民族は南部コルドファン地方の山岳部に住む民族で、南スーダンが2011年に独立した後のスーダン国境の北側に属する。

スーダン人であることを自認しているにも関わらず、政府軍とスーダン解放運動(SPLM)との内戦は未だ続き、彼らは故郷において命の危険にさらされている。避難できるところであればどこへでも亡命する必要に迫られている。

ヤラの夫やその他多くのスーダン人にとって、それは長旅の伴う亡命だった。スーダンを不法出国した後、エジプトまたはレバノンからトルコへ、そしてイタリアやブルガリアなど欧州に渡り、ようやく英国までたどり着く。

彼女はサウジアラビアに姉が、スイスに従兄弟が、親戚がイタリアにいるという。彼らが離ればなれに暮らさなければならない理由について次のように話す。「難民証明をパスポートにもらうと、その人はその発行国で暮らす義務があります。もし別の場所に居住していることが見つかれば、その場で強制送還されるのです」

「ここでの暮らしはなんとかなっています。周りにヌバ民族の人たちもいますので、辛いことや自分たちの民族のために戦うことについても話し合ったりできます」とヤラ。子育てのほかに、彼女は仕事探しに役立つよう独学で勉強している。「英国で教育を受けていても移民が仕事に就くのは大変なことです。人生そううまくはいきませんね。」

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スーダン出身のミュージシャン、ハッサン・サリ・ヌアがこのイベントに招かれ、ウオッドと呼ばれるアラブ音楽のギターでスーダンの音楽を演奏した

英国では3月にある母の日を前に、グリーン・コルドファンのラガ・ギブリールは募金を募るこのイベントを企画した。母の日のカードや福引き券が彼女の新しいプロジェクトの資金集めのため販売された。

彼女は長期的視点でクラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げた。「ヌバ難民の若者たちの希望」と銘打って、南スーダンのイダ難民キャンプの子ども達が安全に整った環境でサッカーができ、軍隊に入らなくてもすむようにする計画だ。目標額は6,000ドル、集められた資金で最初の6カ月間の道具や週3回の練習の機会を提供する。

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ギブリールは、スピーチでこの計画を披露。「このプロジェクトは子ども達に軍隊に入るのではなく、社会復帰と新しい未来を与えるものです。」こうした活動を通して子ども達は余暇活動や規範を学ぶだけでなく、自分を大切にすること、そして将来への目標を見出すことができると考える。また、男性の助けのない家庭で母親やその他保護者の負担を減らすことにもつながる。

スーダン和平のために活動する英国ダルフールユニオンの事務局長モタズ・バルゴは、イベントの参加者に次のように呼びかけた。「グリーン・コルドファンは勇気と決意をもって創設されました。共に立ち上がり、子ども達を支援していきましょう。それが我々を結びつける将来につながるのです」

ギブリールは、スポーツクラブやスポーツメーカーなどの企業にも協力を呼びかけている。英国の人道支援団体は既にグリーン・コルドファンに支援の手を差し伸べている。

ウェイジング・ピースはそうした団体の一つで、専門家の助言や資金で協力する。この団体はスーダンの人権侵害について、政策決定者や一般社会に向け、全国紙の記事や議会でのイベントを通じ、また学校や大学で活動している。代表のオリビア・ウオラムは「ラガはイダキャンプの難民の子ども達のために大変重要な活動をしています」とコメントした。

草の根外交官という名のコンサルタント団体の創設者で代表のタリン・ラーマン=フィゲロアはギブリールの企画を「野心的」とみる一方、自身の団体の活動経験からスポーツが当事者団体の結びつきを促すことができると見ている。

彼女によれば草の根外交官の果たす役割は、関連団体の支援を取り付け、国内で安定して活動が行えるようパートナーシップを築いていくこと。

そしてこのプロジェクトが成功すれば、両者にとってコルドファンの難民たちが彼らの故郷の市民に戻る目標に近づくはずだと期待している。

これはつまりジブリールやその他スーダン出身の移民達がグリーン・コルドファンの活動を通じて実現しようとしていること。バーミンガムのイベントのスタッフをしていたナグワ・シャッガは強調した。「私たちは自分たちの国を愛しています。安全に暮らせるものなら今にでも帰りたいと思っています」

シャッガは、英国に住むスーダン出身者たちでまとまり、何とか故郷の状況を改善したいと考えている。英国では「ヌバ山岳の福祉協会」や「ヌバ山岳の連帯」といったいくつかの団体がコルドファン地方の安定のため活動している。

例えば、「ヌバ山岳の福祉協会」は、ヌバ民族の日に文化イベントを開催、服や学用品、医療品を集めてスーダンに送ったり、一般にも公開してコンピュータ講習などの教育プログラムを実施している。

彼女は言う。「この国で生まれた子ども達の世代はもしかすると違う考えかもしれません。でも私たち大人にとってここは一時的な母国でしかないのです。私たちはいつの日か祖国に帰れることを願っています」

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音楽が年齢や出身国を超えて人々を結びつけ、スーダンについて思いを馳せる一時となった

注)一部の人名は仮名です。

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Michiko A について

Freelance writer/editor/translator from Tokyo, Japan. Studied at London School of Journalism in 2014. Has experience in translation between JP-EN and magazine productions.

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